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アドベンチャーゲーム史(国外編)

1.テキストアドベンチャーゲームの時代

1969年、コンピュータを使うことはまだ研究者たちの特権だった。その頃産声を上げたのが世界初の広域ネットワークであるARPAnetである。後にインターネットへと発展していくこの試みは彼らに受け入れられ、数多くの実験がARPAnet上で行われるようになっていった。

そして1977年、Willie CrowtherとDon Woodsによる世界初のアドベンチャーゲーム"Adventure"が登場する。当時のコンピュータのほとんどはまだグラフィックを扱えなかったので、当然これはテキストアドベンチャーである。"Adventure"はARPAnetで空前の人気ゲームとなり、またその難解さから数多くの議論をARPAnet上に巻き起こすことになった。

当時、MITのDM(Dynamic Modelling Group、現在のProgramming Technology Division)に所属していたMark Blank、Bruce Danniel、Tim Andersonの3人も"Adventure"に熱狂していた。そして、ゲームをプレイするだけでは満足できなくなった彼らはテキストアドベンチャー"Zork"の開発に傾倒していった。当初"Zork"はどちらかといえばショートゲームだったのだが、改良に改良を重ねて洗練され、またRadio Shack TRS-80やApple][といったパーソナルコンピュータに移植されることで(元々はDECのミニコンピュータPDP-10用のゲーム)、研究者以外の人々すら魅了していった。彼らは1979年にInfocom社を設立し、以降数多くのテキストアドベンチャーを精力的に発表していく。

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Fig. 1 Zorkの画面

2. グラフィックアドベンチャーの登場

1977年、「魔法使い」Wozniacと「カリスマ」Jobsの『二人のスティーブ』が開発した、初めてカラーグラフィックを実現したパーソナルコンピュータ、それがApple][である。このパソコンは全米で大ヒットし、数多くの「名作」ゲームが登場していった。Infocom社もこのムーブメントに参入し、"Zork"を始めとするテキストアドベンチャーの数々でプレイヤーたちを魅了していった。

Roberta Williamsもそうしたプレイヤーの一人だった。彼女は熱心なプレイヤーであり、またそれゆえにアドベンチャーゲームに不満を抱くようになった。「文字ばっかのゲームにはウンザリ」そう思った彼女は自ら『挿絵付きのアドベンチャーゲーム』を開発することを決心した。これが"Mystery House"である。白黒の線画だけ、というシンプルな挿絵ではあったが、このとき確実にアドベンチャーゲームは『進化』したのである。

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Fig.2 Mystery Houseの画面

このゲームに感心した彼女の夫、KenはOn-Line Systems(現在のSierra On-Line)を設立し、"Mystery House"を発売する。このゲームは大ヒット作となり、On-Line Systemsはゲーム界の一大コンツェルンへの道を突き進んでいくのである。2人の子供の母親でもあり、おそらく毎晩子供に童話を聞かせていたであろうRobertaは特にファンタジーの分野にその才能を発揮し"Wizard and the Princess"や"Dark Crystal"などのゲームを次々と発表していった。さらに外部スタッフによる空前のSF超大作(ディスク12枚組み!)"Time Zone"のヒットなどもあって『アドベンチャーのOn-Line Systems』の名は不動のものになっていった。

3. ターニングポイント : King's Quest

1983年、IBM社は不調のIBM-PC Jr.のテコ入れとしての『キラーアプリケーション』を欲していた。IBMはRobertaに白羽の矢を立て、そして彼女は新しいタイプのアドベンチャー"King's Quest"を開発した。アクションゲームの要素を取り入れ、(従来の一人称の視点であった画面構成ではなく)3人称の視点から見た主人公をカーソルキーで動かしていくという発想は革新的であった。400ドルのEGA(Enhanced Graphics Adapter、320x200x16色など)カードを必要としたにもかかわらず、このゲームは当時のゲームとしてはトップクラスの売れ行きだったと言われている。

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Fig.3 King's Questの画面

このゲームシステムはその後アメリカのアドベンチャーゲームの主流となり、Questシリーズ(King's Quest/Hero's Quest/Space Quest/Police Quest)をはじめとするSierraのゲームやLucasArtsの一連のシリーズ、そしてASC GameのSanitariumなどに受け継がれていくのである。

4. 87年頃の流れ : LucasArts と Cyan

80年代後半、(移動だけはカーソルキーやジョイスティックで行えるようになったものの)依然としてアドベンチャーゲームの操作は『キーボードからコマンドを入力する』というものであった。そしてその当時のプレイヤーたちは『やるべきことは分かっているのに適当な単語がヒットしない』ということに強いフラストレーションを感じていた。

この流れに一石を投じたのがLucasfilm Games(現LucasArts)のデザイナー、Ron Gilbertだった。彼の考案したSCUMM(Script Creation Utility for Maniac Mansion)システムはグラフィックカーソル(キーボードやジョイスティックで操作するマウスカーソルみたいなもの)であらかじめ用意された動詞と画面上の物体をクリックすることによってコマンドを作っていくものであり、これによりプレイヤーたちは謎解きに専念できるようになった。もっとも、このシステムが最初に搭載されたのは1987年に登場したApple][用の"Maniac Mansion"であったため『カーソルの動きがもたもたしていて思考の妨げになる』という問題があったが、後にIBM-PCに移植され、マウスによって快適にカーソルを操作できるようになった。

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Fig.4 Maniac Mantionの画面

また、1987年RandとRobynのMiller兄弟はMacintosh用のハイパーテキスト(マウスで文書の特定の箇所をクリックすることにより別の文書に移動するようなテキスト、WWWで使われているHTMLはハイパーテキストの一種)開発ツールであるHyperCardを利用した新しいゲームを開発していた。この『マウスで画面をクリックするだけで次々と進んでいく』ゲーム"the Manhole"は3年後に日本でヒットし、PC-9801、FM-TOWNS、PCエンジン、スーパーファミコンなど数多くの機種に移植された。そしてこのヒットが日本のプレイヤーに好印象を与え、資金難にあえいでいたCyan社(Miller兄弟の設立したソフトハウス)にサン電子が投資し、その結果大ヒット作"Myst"が登場するのである。

5. 90〜93年 : CD-ROMの普及

CD-ROMは88年頃から普及しはじめたメディアである。特に日本ではPCエンジンCD-ROM2(NEC HE)、FM-TOWNS(富士通)、MEGA-CD(SEGA)などの家庭をターゲットにしたマシンがいち早く登場しており、ゲームプレイヤーたちにとっても珍しいものではなくなりつつあった。一方アメリカではまだまだデータベース的な使われ方が中心であり、個人でパソコンのCD-ROMを購入するのはお大尽の道楽でしかなかった。

そんな中、1990年に登場したのがReactor社の"Spaceship Warlock"だった。レンダリングされた世界の中をポリゴンキャラがグリグリ動き、しゃべりまくるというこのゲームは、『CD-ROMを接続したMacintoshIIシリーズ』という1セット100万円はくだらないマシン専用のゲームだったにもかかわらず(瞬間的ではあったが)IBM-PCやAMIGA用のゲームを押さえて全米ヒットチャート一位を記録したのである。また、日本ではMacの新規購入時に一緒に買われることが多かったためか、ヘアヌード写真集の"Yellows"とともにかなりのロングランを記録した。

また、ほぼ同時期にIcom社は実写取り込みのムービーをふんだんに使った"Sherlock Holmes Consulting Detective"(1990、邦題は『シャーロックホームズの探偵講座』)を登場させている。。最初はCD-Iというマイナーな規格で発売されたゲームだったためぱっとしなかったが、後にPCエンジンやMEGA-CDに移植され、続編が出るほどの人気作となった。

一方、アドベンチャーゲーム業界の老舗であるSierra On-LineやLucasArtsもまたCD-ROMを活用しようとしていた。当時はPCM音源を搭載したサウンドブラスターがIBM-PCにおける事実上の標準となりつつあり、大容量メディアさえあればフルトーキーのゲームが可能という状況だったのである。IBM-PCの世界ではCD-ROMがなかなか普及しなかったのだが、93年までには両者ともフルトーキーのゲームを投入する(Lucasは"Indiana Jones and the Fate of Atlantis"、Sierraは"Space Quest IV" "King's Quest V"など)。

6. その後の流れ

1994年にはその後のアドベンチャーの流れを決定するソフトが発表される。そう"Myst"である。"Spaceship Warlock"の数段上を行く美しい背景、CD-ROMならではのリアルなサウンド、そして"the Manhole"ゆずりの平易な操作性はパソコンゲーム史上no.1の大ヒット作となり、また"Journeyman Project"や"7th Guest"など、似たようなスタイルの数多くのゲームの登場を促し、この種のゲームがアドベンチャーゲームの主流となっていくのである。しかしその一方で「これらのストーリー性の希薄なゲーム類の氾濫がアドベンチャーゲームの衰退を招いた」という声があるのも事実ではある。

また、アクションRPG"Drakkhen"で一躍一流ソフトハウスの仲間入りを果たした仏Infogrames(アンフォグラム)社によって、ポリゴン技術(別のコンピュータで計算させたポリゴンを動画で見せるのではなく、パソコン内でリアルタイムにポリゴンを演算描画するという意味で)をアドベンチャーゲームに使用することを提案した。同社は"Aeternam"でポリゴンADVの可能性を提示し(ただしこれはポリゴンでカートゥーン調の2Dアニメを行ったもの)、そして"Alone in the Dark"で3Dポリゴンアドベンチャーという新しい流れを作りだした。

7. 現在

3Dポリゴンはアドベンチャーゲームの主流になりつつある、といってもいいだろう。2D時代にこの業界を支えていたLucasArtsやSierra On-Lineですら3Dアドベンチャーに参入している。とはいえ、両者共に彼らが元々持っていた長所を捨てるつもりはさらさら無いようである。"Grim Fandango"のクサいセリフの数々とゲーム終盤のドラマティックな展開はLucasのお家芸と言っていいものだし、Sierraの"King's Quest VIII"も(筆者自身は未プレイ)期待を裏切らないゲームのようだ。

また、『元祖ポリゴン』"Alone in the Dark"もシリーズ3作目を数えた。このシリーズはこれ以上の続編の予定は無いようだが、そのコンセプトはEidos社の大ヒットシリーズ"Tomb Raider"シリーズやPlayStatioon用の数々のアドベンチャーゲームに受け継がれている。

いわゆる"Myst系"のゲームもコンスタントに登場している。Presto Studiosの"Journeyman Project"シリーズは既に3作目を数え、またCyan社の"Myst"の続編"Riven"も登場した。いずれもロングランを続けているようである。

とはいえ、プレイヤーはやはり良質のシナリオを求めているようだ。発売前はノーマークに近かったASC Games社の"Sanitarium"のヒットがそれを物語っている。このゲーム、画面やムービーのデザインに3Dレンダリングを用いているものの、基本的にはLucasやSierraの流れをくむクラシックアドベンチャーである。「良質のシナリオこそアドベンチャーの決めて」であることを証明して見せたゲームであると言えよう。


参考文献

  1. INFOCOM Homepage(ミラー) (オリジナルのURL: http://www.csd.uwo.ca/Infocom/)

  2. Cyan Homepage

  3. Presto Studios Homepage[archive]

  4. Roberta Willams, Leslie Sayes Balfour他 ; King's Quest Collectionマニュアル ; Sierra On-Line

  5. FM TOWNSアプリケーションカタログVol.22 ; (株)富士通

  6. 87〜93頃のログイン誌 ; (株)アスキー

  7. 89〜94頃のOh!FM/Oh!FM-TOWNS誌 ; (株)ソフトバンク

  8. 『Rand Millerインタビュー』 ; Play On Line 99年3月号 ; 株式会社アクセラ


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