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日本版NCAAの可能性は?

by ktj posted at 2017-06-03 19:14 last modified 2017-06-11 14:36

NHKの「大学スポーツ 学校や競技の枠超えて統括する組織創設へ」を一読して思う所など。

一スポーツ観戦者としては、アメフトをはじめとして様々な大学スポーツが盛り上がって欲しいと思っている。ただ、アメリカと日本とでは大学のあり方や学生スポーツの収益構造も大きく異なるので、日本版NCAAの成功には大学制度そのものにメスを入れる等の抜本的な改革が必要なんじゃないかとも思う。

NCAAの特徴

競技種目を越えた団体であること

NCAAは複数のカンファレンスから構成される団体である。各カンファレンスは複数(男女合わせて10数~20数)のスポーツをサポートしており、大学の運動部(といっていいのかな?)のほとんどは同じカンファレンスに所属する。ただし、所属しているカンファレンスでサポートしていない競技については別のカンファレンスに所属する場合もある。また、人気スポーツであり多大な収益をもたらすアメリカンフットボールのみ別のカンファレンスに参加する場合もある(フットボール専用のカンファレンスもある)。また、ノートルダム大学のようにフットボールについてはカンファレンスに所属しないというケースもある。

同じ大学のチームは競技を越えて同じニックネームを使用する(ハワイ大学のように男女で異なるニックネームを採用する所もあるが)。このニックネームの共有や、競技を越えて同一カンファレンスに所属する(=競技を越えたライバル校関係が成立しやすい)ことで、大学全体としての一体感が醸成されるというメリットが生じている。

なお、カンファレンス内での対戦しか行わないということはなく、レギュラーシーズンにおいてもしばしば他のカンファレンスとの公式戦が組まれる。多くの協議ではレギュラーシーズン終了後にポストシーズンとしての全米トーナメントが行われるが、トーナメントに進出できるかどうかはカンファレンス外の試合結果も含めて総合的に判断される。

多数の競技のサポートが義務付けられていること

NCAAを構成するカンファレンスはI~IIIの3つのディビジョンに分かれている(フットボールに関してはDiv IをFootball Bowl Subdivision(FBS)とFootball Championship Subdivision(FCS)の2つに分けている)。各ディビジョンの最大の違いは、所属する大学にサポートが義務付けられている競技数である。最上位のディビジョンI(Div. I)の場合は男女それぞれ7又は男子6女子8の計14競技、ディビジョンII(Div. II)では男女それぞれ5又は男子4女子6の計10競技のサポートが義務付けられている。最下位のディビジョンIII(Div. III)は男女それぞれ5且つ2競技が男女両方にあることが条件となっている。

また、スポーツ選手への奨学金枠はディビジョン毎に異なり、ディビジョンIIIでは奨学金は認められない。

つまり、メジャースポーツのみ一点強化してマイナースポーツを疎かにすることが困難な状態となっている。

マルチアスリートを可能とするシーズン構成

これは高校でも同じだが、各競技のシーズンは比較的短いため、日本のように年中同じ競技ばかりやっているということはない。具体的にはだいたい以下の通り。

  • 陸上競技: 屋内は1月から3月上旬、屋外は3月中旬から6月中旬
  • 野球: レギュラーシーズンは2~5月で6~7月頭にポストシーズン(優秀な選手は夏休み中にサマーリーグという学外のリーグに参加することもある)
  • ソフトボール: レギュラーシーズンは2~5月上旬ごろまででそこから6月頭ごろまでがポストシーズン
  • サッカー: レギュラーシーズンは8月末~11月頭ごろ、ポストシーズンは11月中旬から12月頭ごろ
  • フットボール: レギュラーシーズンは9~12月で1月にポストシーズン
  • アイスホッケー: レギュラーシーズンは10月から翌年2月、ポストシーズンは3月から4月頭
  • バスケットボール: レギュラーシーズンは11月から翌年3月上旬ごろで、そこから4月頭までがポストシーズン
  • レスリング: レギュラーシーズンは11月から翌年2月。ポストシーズンは3月

この結果、シーズンオフは学業に専念できるし、複数の競技に参加することも可能である。特にシーズンの重ならない野球/陸上競技とサッカー/フットボールを兼ねる選手が多いようだ。

学業との両立

アメリカ大学ランキング(留学指導を行っている栄 陽子留学研究所による大学ランキングサイト)によると、大学への合否は以下の項目に基づいて総合的に判断される。

  • 高校の成績
  • エッセイ(作文)
  • 推薦状
  • SAT®/SAT®教科別テストのスコアまたはACT®のスコア
  • TOEFL®テストのスコア(主に留学生に対して考慮される)
  • 課外活動
  • 面接

SATというのは基礎学力を判断する為のテストで年4回実施されている(入学希望者はSATを複数受験して最も成績のよいものを大学に提出することができる)。合否判定は上記のように総合的に判断されるため、スポーツ選手についてはSATの点数は一般入学の受験生に比べて低くても合格できる。とはいえ、大学の授業についていけるだけの点数は要求されている。また、ディビジョン毎に奨学金が下りるSATの点数は決められており競技レベルの高いディビジョンIの大学で奨学金を得るためにはより高いSATの点数が要求される。

また、進学後も学業不振であれば奨学金を打ちきられたり、試合への出場資格を失う可能性がある。この様な事態を防ぐ為、各大学は選手の学業面でのサポートを行うためのカウンセラーを雇用している。

NCAAではレッドシャツ(red shirt)という制度があり、入学時に学業と競技の両立が困難であると判断されたり同ポジションに有力な上級生がいる場合には、1年目は試合に出ないことを条件に、2年目から4シーズン選手として過ごすことが可能である(奨学金の提供期間も伸びる)。アメリカでは大学の学年を下からFreshman、Sophomore、Junior、Seniorと呼ぶがこれは学業とスポーツとで別々にカウントされる。つまり、1年目をレッドシャツとして過ごした2年目の選手は、学生としてはSophomoreだけど競技者としてはFreshmanとなる。この様な場合、レッドシャツを経た選手とそうでない選手の学年を区別するため、前者をRes Shirt(RS) Freshman、後者を(True) Freshmanと呼ぶ(大学のRosterでもそのような表記となっている)。マルチアスリートの場合は競技毎にレッドシャツを選択することが可能であり、ある競技ではRS Freshmanだが別の競技ではSophomoreという状況も起こりうる。

なお、故障で1シーズン競技ができない場合にも競技期間を1年延ばすことが可能でありこれもレッドシャツと呼ばれる。

このように、NCAAでは学業との両立が重視されており、また、そのためのサポート体制も用意されている(ただし、男子バスケットボールについては高校卒業から1年経過するとドラフトの対象となるため、指名確実な選手の場合学業が疎かになる可能性もある)。また、競技との両立に伴う事実上の留年は学生としてのキャリアを傷つけるものではない(成績不良な学生を4年で無理やり卒業させるよりも、5年かかったとしても優良な学業成績を得ることの方が高評価になる)、というのも日本との大きな違いだろう。逆に、学業成績優秀なアスリートであれば、レッドシャツと飛び級を併用して競技者と並行して大学院に進学することも可能である。というか早く卒業してしまった場合は何らかの形で学業を続けないと奨学金を打ちきられる可能性もある。例えば、現NFLシアトル・シーホークスのQBであるラッセル・ウィルソンは1年目をレッドシャツとして過ごした一方で大学を3年で卒業しまったのでRS Juniorのシーズンは大学院の授業を受けていた。また、ウィルソンはMLBにドラフト指名され卒業後フットボールのオフシーズンはマイナーリーグでプレーしていた。このことが原因となったのか、ウィルソンは当時所属していたノースカロライナ州立大学からRS Seniorの奨学金を打ちきられ、ウィスコンシン大学に移籍している。

奨学金

アメリカの大学、特に私立大学は学費が高額であるため、多くのスポーツ選手は奨学金を得て大学に進学する(スポーツ奨学金なしの競技者はWalk-onと呼ばれる)。この奨学金は学費と寮費、食費、光熱費を大学が負担するものであり、それ以外の経済的な支援は認められない。日本でスポーツ奨学金というと私立がイメージされるが、アメリカにおいては州立大学でもスポーツ奨学金は提供され、州立のスポーツ名門校も多い。例えば、2017年のNCAA Div. I バスケットボールトーナメントに出場した64校の内訳を数えたところ公立が43校、私立が21校だった。フットボールはもっと公立寄りで2016シーズン最終ランキングのトップ25校中私立は2校のみである。

競技ごとの奨学金の枠はScholarshipStats.comに記載の通りであり、フットボール(Div. I FBS)が85人と圧倒的に多い。また、リンク先でHead countとなっている奨学金については、1人分の奨学金を複数の競技者で分け合うことはできない。つまり、Div. I FBSのフットボールについては奨学金を与えることができるのは85人までとなっている一方、Div. Iの野球(11.7人)については12人以上の選手に奨学金を与えることが可能である。

また、マルチアスリートの場合は奨学金に優先順位があり、優先順位の高い競技の奨学金のみが認められている。つまり、マイナー競技の奨学金を使ってメジャー競技の試合に出場させることは禁止されている。Div. I男子の場合は「フットボール>バスケットボール>アイスホッケー>水泳・飛び込み・水球>その他」という優先順位であり、Div. I女子の場合は「バスケットボール>バレーボール>その他」という優先順位である。

上記のように奨学金枠が女子やマイナースポーツにも用意されており、また前述のようにシーズンが短く(特に高校レベルでは)複数の競技を兼任することが十分可能であるため、アメリカのアスリートはマイナースポーツにチャレンジする機会が多い(競技者にとっては奨学金を得るチャンスを増やせるというメリットもある)。結果として、アメリカはマイナースポーツの層も厚くなっている。

収益構造

NCAAの競技の中ではフットボールと男子バスケットボールの人気が群を抜いて高い。アメリカの大学はメジャープロスポーツの無い大都市圏外にあることが多く、そこではNFLやNBAを凌ぐほどの人気となっている。多くの大学ではフットボールのスタジアムと体育館は自前であり、規模だけならNFLやNBAを凌ぐものも少なくない。ただし、あくまでもアマチュア用なので設備面ではプロ用の施設に大分劣る。例えばカレッジのスタジアムの座席の大半はアルミ製のベンチである。

NCAAのみならず各カンファレンスは自前の番組作成設備を持っており、衛星放送やインターネット放送などを運営している。前述のように各競技のシーズンは短く年間を通じて何がしかの競技が行われており、休みなく番組を提供することが可能である。フットボールや男子バスケットボールの注目カードはESPNや地上波でも放映され、これらの放映権収入は各大学の重要な資金源となっている。

学生・大学にとってのメリット

「一般入学できる程頭がいいわけでもなく寄付金積んで入学できるほど裕福でもないけど、スポーツは得意」という高校生でも大学教育を受けることができる(=それなりに高収入を得られる職につけるチャンスを得られる)、というのがメリット。

一方、大学側から見ると「他の学生や大学職員及びその家族に多様な娯楽をすることで、優秀な学生や職員を確保できる」というのがメリットの一つではないかと。アメリカの大学って郊外というか田舎にあるし。なんで、スポーツだけじゃなく学生演劇とかも大事。大学教員なんて「教養が高い故に多様な娯楽を欲する」層の代表格だしね。あと州立大学だと「地域に高レベルの娯楽を容易することで(特に税金を沢山払ってくれる高教養で高収入の)住民の定住を図る」っていうのもあると思う。

また、上でも書いたけど学生スポーツは学生の大学への忠誠心や同門としての一体感を形成する材料という一面もあるんじゃないかと。学生にとっては、同門の学生・OBOG同士でビジネスを立ち上げるきっかけとなるし、大学にとっては経済的に成功するOBOGが増え(OBOGの忠誠心が高いので)彼等からの寄付も期待できる、というのもメリットか。

日本版NCAAへの課題

資金源

アメリカでNCAAが成り立っているのはフットボールと男子バスケットボールの人気がプロ並に高いからであり、他のスポーツをまかなえる程稼げるスポーツが日本で生じるのかと言う問題。現時点では駅伝くらいじゃないかな。

人材の分散

日本の高校スポーツでは競技者が1つのスポーツに長期間にわたって専念するようになっており、マイナースポーツの層が薄くなっている。大学スポーツの競技レベルを高めるためには、まず高校スポーツのシーズンを短縮・分散させて(むろん奨学金枠も各スポーツに分散させて)マルチアスリートが生まれやすい土壌を作る必要があると思う。

大学の位置づけ

大学スポーツを盛り上げる為には、優秀なアスリートを各大学に分散させる必要がある。そのためには、各大学が進学するアスリートにとって魅力的な環境であることが望まれる。卒業後も競技者でいられる選手はごく一部であり大半は大学で選手としてのキャリアを終える以上、アスリートにとって魅力的な環境とは、卒業後のキャリア形成において(一般入学の学生にとっても)魅力的な環境であろうと考えられる。

前述のようにアメリカにおいてスポーツの名門校の多くはむしろ公立(州立)大学である。州立大学、特にフラッグシップ校と呼ばれる大学は非常に学生数が多い。例えばテキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin)は50000人以上である。また、私立大学に比べると大学院に対して学部生の人数が多い(前述のテキサス大学においては40000人近くが学部生である。一方で私立大学である南カリフォルニア大学(University of Southern California)は40000人強の学生の過半が大学院生である)ことも特徴であり、学部レベルで一定水準以上の人材を多数輩出することを重視しているものと思われる。

このことから、日本の大学においても「生産性が高い知的労働者」を輩出できる教育機関としての側面を有することが重要であるかと思う(無論、アメリカの名門校のような「起業家や弁護士、企業のマネージャなどの桁違いの収益を叩き出せる可能性のある人材を輩出できる場を目指すこと」を捨てる必要はなく両機能を並立できるような教育環境が理想だろう)。同時に、卒業生を受け入れる側の企業サイドもそのような教育の成果を重視した採用を意識すべきかと。

あと、大企業の本社機能が首都圏と京阪神に集中しすぎでみんなそっちの大学に進学しちゃうのも問題。アメリカの企業は結構分散しててそれが地元大学卒業生の重要な雇用主になってたりするんだよね(例えばマイクロソフトは地元ワシントン州の州立大学から大量に雇用している)。それが地方の大学の長所になってたり。

これらは一朝一夕に改善できるもんでもないし、だからこそ日本版NCAAも難しいよなぁ、というのが実感。

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